第二話<極楽寺>
文章・絵:SHIZUMU(OpenDesign) 制作:OpenDesign
第一番札所・霊山寺(りょうぜんじ)の守り人・淡桜(あわざくら)と別れ、山門を出たところで、俺はあゆみがいないことに気がついた。
慌てて辺りを見回す。そして少し後方に、二人連れのお遍路さん――年配の女性の二人組だ――と話しているあゆみの姿を見つけて胸をなでおろした。よかった、迷子になったのかと思った。
「ごめんごめん。いきなり呼び止められるんやもん、びっくりしたぁ」
「急におらんなるけん、こっちがびっくりしたわ。で、何を話してたん?」
頬を紅潮させて駆け寄ってくるあゆみを、俺はツッコミと質問で迎えた。
「服、可愛いねって褒めてくれたんよ」
あゆみは照れながら答える。お店で買ったものかと聞かれて、自分で作ったのだと説明していたらしい。そんなあゆみの服装は、やはり目を引くようで、立ち止まって話をしている今も見られているのが分かる。正直、恥ずかしい。
「そだ。携帯の番号教えてもらってええかな? これから何があるか分からんし、お互いの連絡先を知っておいた方が安心やろ」
「ごめん。あたし、携帯持ってないんよ」
……まじか。
「あ、でも、携帯がどんなものかは知っとるんよ」
俺が無言になったのが気になったのか、あゆみは聞いてもいない携帯電話の定義について話し始めた。そして言い知れぬ不安におそわれる。
この娘はいったい、いつの時代の人なのだろう、と。
「寄りたい場所があるんやけど……いいかな?」
次のお寺へと向かう途中、あゆみは思い出したように話しかけてきた。
「ここから六百メートルくらいの距離やけん。歩いて十分もかからんと思うんよ」
気を遣っているのか遠慮気味に言うあゆみに、構わんよと返事する。そもそも俺はただの付き添いなのだ。ついて行く以外にすることもないし、わざわざ断りを入れてくれなくてもいいのだが。
はたして、目的の場所には八分で到着した。
鳴門市ドイツ館。
第一次世界大戦中、日本はドイツの租借地であった青島を攻撃し、約五千人のドイツ兵を俘虜として日本各地の収容所に送った。このうち四国にいた約千人が板野郡板東町(現在の鳴門市大麻町)の板東俘虜収容所で過ごすこととなった。当時の所長の判断で、ドイツ兵の人権を尊重し、できるかぎり自主的な運営を認めたため、ベートーヴェン「交響曲第九番」の国内初演をはじめ、地域の人々と活発な文化交流が行われたという。
このドイツ館は、彼らドイツ兵と地域の人々との交流を顕彰するために建てられた史料館であり、当時の史料や映像、模型などが展示されている。
なるほど、過去の人々の繋がりを記憶する建造物というわけか。
この場所も四国の結界と関係があるのかもしれない、俺はあゆみに聞いてみた。
「ん? ああ、違う違う。あたしがここに来たかったんは、他に理由があるんよ」
あゆみは笑いながら答えた。いつの間に調達したのか、手には観光ガイドブックが握られている。真面目に考えていた俺って……。
館内に入ると、あゆみは売店へ直行した。そこではドイツワイン・ドイツビールを中心に、お菓子などの輸入商品やドイツ館関係の書籍、オリジナル商品が売られている。
「あった、これこれ」
様々な種類のラベルが貼られたお酒のボトルが並ぶ陳列棚。あゆみは、そこから一本のビール瓶を取り出して俺に見せてくれた。
「これはね、あの有名なビール評論家のマイケル・ジャクソンさんが最高評価の四つ星をつけたビールなんよ!」
「はぁ……」
「マイケルさんは『「The Beer Hunter」の称号を持つ男』って呼ばれとるんよ! カッコいいよね!」
「そうですか……」
世界的なビール評論家であるイギリス人ライター、マイケル・ジャクソン氏。アメリカの著名ミュージシャンのマイケル・ジャクソンと同姓同名で、歌手のマイケルが「ポップの帝王(King of Pop)」と呼ばれたのに対し、「ホップの帝王(King of Hop)」と呼ばれることもあったとか。二〇〇七年、心臓発作でこの世を去ったが、著作などを通じてベルギービールを全世界に広めたことは彼の功績である――と、あゆみは熱く語ってくれた。
やけに詳しいな。この未成年。
「あ。あたしが詳しいんやないんよ。父が外国のビールに凝っとるけん」
心の声を読んだとしか思えないタイミングで補足するあゆみ。そして、父親の受け売りと言いながら、あれやこれや聞いたことのない銘柄のビールの解説を始めた。適当に相槌を打ちながら聞いていたが、残念なことに内容は何一つ覚えていない。
「家に送ってもらうけん、ちょっと待ってて」
一通り話して満足したのだろう、あゆみはビール瓶を抱きかかえてカウンターへと走って行った。転ぶなよー。
しばらく待っていると、俺を呼ぶあゆみの声が聞こえてきた。
「どした?」
「この住所じゃ送れんって言われたんよ」
そう言って伝票を指し示すあゆみ。いささかご立腹のようだ。
「どれどれ――ぶはっ」
思わず咳き込んだ。先のお寺で発心式――お遍路では、お大師様にお経や十善戒をあげて縁を深め、旅の誓いをたてるとともに満願成就を願う儀式のことをいう――を終えたばかりだが、この喉元までせり上がった言葉を飲み込むことは俺には不可能だった。
「…………お前、馬鹿だろ?」
俺の反応に、あゆみはますます不機嫌そうな顔をする。
いやいや、これで配達しろと言うほうがどうかしていると思うぞ。伝票の住所欄には『四国の中心』の五文字。そしてご丁寧に、『ココ』と矢印が記された四国のイラストが描かれている。四国の中心って……、どんな環境で暮らしているのだか。ますます謎が深まるのだった。
一方あゆみは、いまだに納得がいかないらしく唇を尖らせている。
「やけど、田中さんはちゃんと荷物を運んできてくれるんよ」
そうか。すごいな田中さん。だがここに田中さんはいない、諦めろ。
結局、荷物は俺の祖父の家に送り、巡礼が終わったら取りに戻るということになった。
しかし、巡礼を始めて二時間も経たないうちに『十善戒(じゅうぜんかい)』を破ることになろうとは……。
『十善戒』とは遍路の行動規範であり、巡拝にあたっての心構えとして授戒し、十の誓いをお大師様と約束するものである。忘れないよう、復唱しておこう。
一、不殺生(ふせっしょう) 生き物を殺さない。
二、不偸盗(ふちゅうとう) 盗みをしない。
三、不邪淫(ふじゃいん) ふしだらなことをしない。
四、不妄語(ふもうご) 嘘をつかない。
五、不綺語(ふきご) お世辞を言わない。
六、不悪口(ふあっく) 悪口を言わない。
七、不両舌(ふりょうぜつ) 二枚舌を使わない。
八、不慳貧(ふけんどん) 欲張らない
九、不瞋恚(ふしんに) 妬(ねた)まない。
十、不邪見(ふじゃけん) 不正な考えを起こさない。
ドイツ館を出て、来た道を引き返す。観光バスやタクシーが行き交う道路の脇を歩いて行くと、絢爛(けんらん)な仁王門が見えてきた。
日照山(にっしょうざん)無量寿院(むりょうじゅいん)極楽寺(ごくらくじ)。
この地で修行をした弘法大師・空海が、結願の日に阿弥陀如来を感得したため、その姿を彫造し本尊とした。その像は尊容が美しく、発する光は遠く鳴門の長原沖まで達したという。漁民たちは漁の妨げになると、光を遮るために本堂の前に小山を築いた。「日照山」の号はこの故事に由来するものである。
本尊・阿弥陀如来像は国重要文化財であり、「両界曼荼羅図」と「地獄極楽図」はともに徳島県指定有形文化財である。
「派手な門やねえ」
仁王門を見上げながら、あゆみは感嘆をもらす。煌(きら)びやかな門に向って合掌一礼をし境内へと入る。
よく管理された境内は、門とは対照的に落ち着いた雰囲気が漂っていた。「雲海の浄土」と呼ばれる庭園。極楽浄土をイメージしたらこんな感じなのだろうか。
門をくぐった左手に、何やら人垣ができている。
「願掛け地蔵様やね」
集団に割って入ると、そこには色とりどりの前掛けで飾られたお地蔵様が祀られていた。その横に立てられた看板には次のように書かれている。
『願かけ地蔵様にお願いをする時は心静かに合掌し、真心込めてお地蔵様の御真言「オンカカカビサンマエイソワカ」をお唱えし、お願いをすると共に自分も精進努力することをお誓いなさい。お地蔵様は必ずあなたの願いをかなえて下さいます。――合掌』
ふと隣を見ると、真剣な顔をしたあゆみが手を合わせて真言を唱えていた。邪魔をしては悪いだろう、おとなしく待機する。
「よし!」
願掛けを終えて、あゆみが顔を上げた。
「奥に一願水掛不動尊っていうのがあるんよ。折角やけん、だめ押しに不動様にもお願いしてくる!」
言うが先か駆けだすのが先か、あゆみはあっという間に境内の奥へと消えていった。慌てて後を追う。
成就したい願いを「一つ」だけ持って、強く念じながら水をかける。たくさんの願い事は聞いてくれないが、心からお願いするたった一つの願いは聞いてくださるという一願水掛不動尊。
少し遅れて像の前に来ると、柄杓(ひしゃく)を片手にあゆみが奮闘していた。
不動尊との間には少し距離があって、思うように水をかけられないのだろう。かわりに両脇に従えた二体の童子――向かって左が制多迦童子(せいたかどうじ)、右が矜羯羅童子(こんがらどうじ)という――が、哀れなほどずぶ濡れになっていて、苦闘の跡が覗(うかが)える。
あゆみのことだ、満足のいく願掛けができるまで諦めはしないだろう。俺は他の参拝者の邪魔にならないよう脇に避けて、あゆみの気が済むまで待つことにした。
水の跳ねる音が絶えず聞こえてくる。
そんなにムキにならんでもいいのに、と思う。だけど、あゆみの必死な姿を見ている俺の口元は、覚えず緩んでいた。
この娘はどうして、こんなにも懸命になれるのだろう。
――それは、羨望を含んだ疑問。
何かにすがるということは自己の弱さゆえ、滑稽で愚かな行為だと思っていたのに。
――だからこそ伝わる、強い想い。
目の前の少女がどんな願いを抱いているかなんて、俺には分からないし分かる必要もないことだけど。
ただ、それほどまでに叶えたい願いがあることが、純粋に羨ましい――そう思った。
一願水掛不動尊の横にある観音堂を過ぎると、四十四段ほどの石段が現れる。上り口には釈迦の足跡である「仏足石(ぶっそくせき)」があり、左手には弘法大師お手植えとされる樹齢約千二百年余りの「長命杉」がそびえている。この杉は、高さ約三十一メートル、周囲約六メートルもある霊木で、鳴門市天然記念物に指定されている。触れれば家内安全ばかりか、病気平癒、長寿も授かるといわれる。
階段を上った正面に本堂があり、その右手奥が大師堂だ。俺たちはそれぞれに札を納め、経をあげた。
「ところでさ」
一通りの参拝を終えて、俺は気になったことを口にした。
「このお寺って、子どもを抱いてる像が多くない?」
「そうやね、安産・子授祈願で知られたお寺やし。ここのお大師様は『安産修行大師像』って呼ばれてるみたい。境内には数体の子授け招福大師像もあるらしいよ」
そういえば一願水掛不動尊へ向かう途中で見たような。えらく凛々しい顔をした子抱きの像を。
それにしても、あゆみはお寺に関して博識だなあ。つくづく感心する。
「さて、八八(はちはち)さんを探そうか」
「うん。あ、その前に」
とてとてと、あゆみは階段前に置かれた小さなお地蔵様のほうへ歩いて行く。
「おもかる地蔵って知っとる? 願い事をした後にこのお地蔵さんを持ち上げて、思ったより軽かったら、その願い事は叶いやすくて、重かったら叶いにくいって言われとるんよ」
いざ!と勢いよく持ち上げるあゆみ。しかし威勢がよかったのは掛け声だけで、足元はふらついていた。思ったより重かったようだが、何をお願いしたのだろう。
「恵、交代!」
お地蔵様を元の位置に戻して、あゆみが言う。
交代って言われても、特に願う事がないのだが。まあいいか。手を伸ばして力を込めた。
「ん……あれ?」
「どうしたん? もうちょっと真面目にしてや」
「いや、結構本気なんですけど」
どんなに引いても押しても、小さなお地蔵様の体はぴくりとも動かない。
――くすくすくす
そのとき、背後で笑い声が聞こえた。
反射的に振り返る――と、すぐ真横に女の人の顔があって悲鳴を上げそうになった。それを、すんでのところで飲み込む。
「くすくす。願いを持たないヒトの願いは、流石のお地蔵様も叶えることができないということですね」
薄らと光を纏(まと)った子どもを抱いた柔和な女性。穏やかな物言いで、心底おかしそうに笑っている。
「……八八さん?」
「あら、面白い少年がいると思って出てきたら。まさか私(わたくし)の姿が見えるなんて」
それは優しい笑みを浮かべてこう言った。
「はじめまして。私、『二葉(ふたば)』と申します」
お見知りおきを、と優雅にお辞儀をする二葉につられて、俺も同じように頭を下げる。
「よろしく――じゃなくて」
大丈夫なん? 顔が、ものすっごく青いんやけど。
「二葉さん、はじめまして――って、ええ? あ、あの、大丈夫なんですか?」
あゆみに八八さんが目の前にいることを伝えて、お札の力でお互いが干渉し合えるようになったのだが、あゆみは二葉と名乗る八八さんを見るやいなや、俺と同じリアクションをとった。
「くすくす。大丈夫ですよ」
そうは言っても、よくよく見れば子供を抱く手が小刻みに震えている。
「全然、大丈夫そうに見えんよ」
珍しくツッコミ役にまわるあゆみ。
心配そうに顔を覗き込むあゆむに、二葉は少し困った表情を見せた後、恥ずかしそうに小声で言った。
「……そうですね。敢えて言うなら、少々お腹が空きすぎた、というところでしょうか」
そして、半年ほどご飯を食べていないのです、とつけ加えた。どこかで聞いた台詞だな。見た目は全く違うのにさすがは姉妹ということか、俺はおかしくなって噴き出した。
「霊山の姉さまに会ったのですか? それで、姉さまも同じことを――」
俺の何気ない言動に、過剰な反応を見せる二葉。戸惑う、俺。
「え、あの、二葉さん?」
「そうですか、姉さまと同じ発言を……くすくすくす……そう、姉さまと一緒……私が、あの姉さまと同等、同格、対等、五分五分、お相子……貴方は、そう仰るのですね……?」
くすくすくすくす。二葉の笑い声が境内に響く。怖いよ!この人、怖いよ!
「二葉さんって、淡桜さんのこと嫌いなん?」
ちょ、こら、そこの天然コスプレ遍路女!これ以上地雷を踏むような真似は――
「まさか。嫌ってなどおりません」
ビビりまくりの俺の心配をよそに、二葉は落ち着いた口調で即答した。なんだ、仲良い――
「ええ、決して嫌いではありません。なんといっても、かけがえのない姉妹、なのですから。姉さまのことを心身ともに不完全で、未熟で、我が儘で、強引で、身勝手で、横暴で、傍若無人で、分からず屋で、傲(おご)り高くて、アレでソレな存在だとは、微塵も思っていませんし、まして、姉さまの妹であるなんて、思わず笑いがこぼれてしまうくらい耐え難いことだなんて、一片たりとも考えたことはありませんわ」
……うーわ。
一瞬でも「仲良いじゃないか」と思ってしまった俺は、浅はかすぎました。
「あわわ、大丈夫?」
好き放題言うだけ言って、その場にへたり込む二葉にあゆみが手を貸す。空腹なときにあれだけ捲し立てたんだ、誰だって酸欠になるだろうよ。しかし、このまま放っておくわけにはいかない――まして、お札をもらう目的もまだ果たせていない――ので、何か食べれるものを買ってこようと提案したが、二葉は首を横に振った。
「いえ、ヒトの食べ物は必要ありません。階段の下の大杉まで連れていってくださいませんか」
「長寿杉やね、わかった」
あゆみはそう答えて、俺の肩をぽんと叩いた。
「恵、二葉さんを背負ってあげて」
「俺が?」
少しは予想していた展開だけど。
人の多い場所で女の人を抱きかかえて歩くのは抵抗があった。あ、八八さんは他の人には見えないんだっけ。――いや、それはそれで変な人に見えるのは変わらない。
「……いったい、誰の目を気にしとるんかな、恵は」
俺の考えていることが分かったあゆみは、辺りを見回すように促した。
「あれ? 人がおらんなってる」
参拝者であふれていたはずの本堂前は、いつの間にか俺たちを残して誰もいなくなっていた。
「ふふふ、実はこれもお札の力なんよ」
可視のお札を使うと同時に、気兼ねなく八八さんと対話ができるようにと人払いの力も使っているのだとか。霊山寺では気付かなかったけれど、思い返せば淡桜と話している途中、誰一人として邪魔が入らなかった。
すごいだろ、と胸を張るあゆみ。うん、確かにすごい。だけど、そんなすごい力を使えるあゆみが、どうして八八さんを見つけることができないのだろう。
素朴な質問を投げかけると、あゆみは黙ってそっぽを向いてしまった。今日は人の地雷をよく踏むようだ。
二葉を長寿杉の下まで連れていき、その幹に触れさせる。すると青白かった肌に血色が戻った。
「ありがとうございます。これでもう大丈夫です」
ご迷惑をお掛けしました、と深々と頭を下げる二葉。
「お腹が空くと、つい苛々してしまって駄目ですね。初対面の方に愚痴をこぼすなんて……お恥ずかしいところをお見せしてしまいました」
二葉は顔を赤らめながら言った。愚痴というのは、姉さま云々のことだろうが、あれは空腹が原因とか、そんな問題じゃない気がする。……と言いかけてやめた。
「さて、お二人にはお礼を差し上げなくていけませんね。ここには何か目的があって来たのでしょう?」
あゆみは頷いて、古文書を差し出した。そして、四国の結界を元に戻すために旅をしていることと、その手段として八八さん全員のお札を集めていることを簡単に説明した。
「なるほど、わかりました。姉さまの入れ知恵というのが気に入らな――いえ、なんでもありませんよ。くすくす」
二葉はあゆみに渡された真っ新なお札に筆を走らせた。
表には絵姿を。
裏には『二葉』という名書きを。
「はい、どうぞ」
「ありがとう!」
あゆみは差し出されたお札を丁重に受け取ると、古文書にかざした。
そして二本目の光が宿る。このお寺との縁も、無事に結べたようだ。改めて二葉に感謝の言葉を贈る。
「どういたしまして」
二葉は、にっこりと、全てを包み込むような微笑みを返してくれた。
さあ次の札所を目指そう。残り八十六箇所、まだ旅は始まったばかりだ。
――このとき、俺は大切なことを忘れていた。
次の札所、金泉寺に着いたとき、そのことに気付かされることとなる。
つづく
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