第十四話<常楽寺>

文章・絵:SHIZUMU(OpenDesign) 制作:OpenDesign


 日本人の多くは自分は無宗教だと言う。
 だからといって、宗教心が薄いとか、信仰心が弱いとは思わない。ともすれば、積極的に頑なに、確固たる信念のもと神仏を否定して、無神論者であることを主張しているのか――それもまた、否、だろう。
 ただ、何て言うか。
 節操が、ない。
 それが中学生だった頃の俺が抱いていた信仰に対する意見――宗教観だった。

幸野恵八とお大師さん

 御年八十八歳になる俺の祖父――幸野恵八は、まごうかたなき仏教徒だ。
 じいちゃんは信仰に“熱い”。
 厚くもあるが、それ以上に、熱い。
 それは熱心というより、熱狂している熱さだ。そう表現した方が“しっくり”くる。
 お大師さんこと、真言宗の開祖、弘法大師・空海。
 じいちゃんは、そのお大師さんが大好きで、大好きすぎて、むしろ愛していると言っても過言ではないほどに――いや、もしかしたら、その言葉では全然足りないのかもしれないけれど――兎にも角にも、崇敬している。
 傾倒している。
 心酔して、しまっている。
 そんなじいちゃんに育てられた俺は、中学に入学する頃にはすっかり敬虔(けいけん)な宗徒に――なることはなく、ほんの少し、ごくごく僅かながら――それも同世代が集う学校という限られた条件の中で――ある意味、高踏的ともいえる宗教意識を持ち合わせた男子生徒になった。
 宗教意識。
 と言っても、仰々しいものではない。かろうじて無宗教ではない、というべきか。
 ただ“自分の家系は仏教だと知っている”というだけのことだった。
 その程度の意識しかなく、それ以上の意識はない。意識を持つことと、信仰することは、また別の問題なのだから。
 だから、宗派がどうとか、教義がどんなものとか、それらは知識としては持っていたけれど、特に必要性は感じていなかった。余剰の知識だと思っていた。
 少なくとも、何の変哲もない男子学生として、ありふれた学校生活を過ごすうえでは不必要な、使い道のない知識だった。
 仮にそれがなかったとしても、学校生活に支障はない。
 別段、困ることはない。
 ましてや、たちまち生きづらくなる、なんてことは一切――ない。

 なんて。

 言っていて恥ずかしくなる。
 それは、あくまで表向き。生きづらくならないための詭弁だった。
 なぜなら、ある一点において、何の変哲もない男子学生とは“言い難い”のだから。
 自分にしか視ることのできない存在。
 成長するにつれて、≪それ≫は“寺でのみ”視えるモノだと気づいた。
 幼い頃、≪それ≫は仏の化身で、自分は仏教の家筋だから視えるのだ、と考えたりもしたけれど、どうも腑に落ちなかった。
 自分にだけ視える、理由。
 どうして、自分だけが?
 いくら考えても、その理由が見つからなかった。≪それ≫が何であるかより、その理由が知りたかった。
 だけど、すぐに考えても無駄だと思い至った。分からないまま放置するのは主義に反するけれど、考えることに意味がないと悟った。
 理由がどうあれ、理由があろうがなかろうが、視えてしまうことに変わりはない。
 そして自分以外の目に映らないのであれば、それは幻覚に等しく、ゆえに≪それ≫が何であったとしても、どうでもいいのだと、そう考えるようになった。
 どんな物事にも必ずといってあるように、このことに関しても例外は存在していたけれど――ともあれ、≪それ≫を神秘的なモノとして崇めることもなければ、過度に否定することもしなかった。
 誰かに口外することはなく、そんな感情(モノ)を抱いている素振りさえ気取らせない。
 それは、変哲もない男子学生であるための必然だった。
 だからこその宗教意識。
 意識や知識はあるけれど、信じる信じないの主張はしない――完全に無関心を装わないのは、じいちゃんの手前もあるからという、これまた打算的な理由だった。
 高踏的と言ったのは、そのためだ。
 結局のところ、自分がどう思っているかなんて問題ではない。
 問題は、他人が自分をどう思うか。それが重要なのだ。

ある年のクリスマス

 俺がそんな考えを抱いていることを知ってか知らずか。
 あの日の夕暮、じいちゃんが言った。
『仏教は宗教やのうて“教え”やけんの』
 と――些か意味の分からないことを、笑いながら言っていた。
 つまりは。仏教は宗教ではなくて、人としての道を説いて諭すもの――哲学なのだそうだ。
 人として生きて、人として死ぬための法(のり)。らしい。
 そして、それは体感してようやく解(わか)るもので、他人(ひと)からの伝聞で得られるのではなく、自身の内に見つけ感得するもの。らしい。
『だからの、無理に理解しようとせんでええ。いや、しちゃいかんのよ。要は、自分を取り巻く人や自然、道具、ありとあらゆる物を大切にしなさい、ということやけんの』
 何がどう「だから」とか「要は」に繋がったのか、中学生の俺にはいまいち理解できなかったけれど――そして高校生になった今でも、その真意は掴めていないのだけれど。
 自分が信じる仏教の、自分なりの解釈を――“考えるな感じろ”的な仏教の“いろは”を、熱く語るじいちゃんは、全身をこれまた燃えるような真っ赤な衣装で包んでいた。
 というのも、その話を聞いたのは師走のみぎり――松山では珍しい雪がちらつく十二月二十五日だったわけで――真っ赤な衣装は俗に言うサンタクロース服だった。
 少し音程の外れた『ジングルベル』を口ずさみながら、大粒のイチゴで飾られたケーキを切り分けるじいちゃん。孫の冷ややかな視線などものともせず、全力ではしゃぐその姿の、どこが敬虔な仏教徒なのだろうか。
 そして、一週間もしない間に今度は正月がやってくる。初詣は例年通り近所の神社へ出掛けるのだろう。これほど騒いだ今日のことなど忘れて、世間に流されるまま正月ムードに染められるのだ。
 俺は、ケン〇ッキーのチキンを頬張りながら、そんなことを考えていた。
 少なくとも。クリスマスという日に、じいちゃんと二人きりで過ごす“この”状況――“この”現実については、考えていなかった。考えないようにしていた。考えたら負けだと思っていた。
 兎に角。
 自称・敬虔な仏教徒のじいちゃんも、クリスマスは祝うし、神社へお詣りにも行く。お盆・お彼岸には墓参りもするし、秋祭りでは率先して神輿を担ぐ。流石にハロウィンだといって、お化けカボチャの着ぐるみ姿で現れたときは引いたけれど。そもそも、それがどんな祭りか、ろくに理解しないまま騒いでたはずだし。アレは絶対。

 改めて考えてみると、日本人はいろいろな宗教儀式に参加する。
 初詣、節分、バレンタイン、雛祭り、端午の節句、七夕、盆、ハロウィン、地方祭――その中には、宗教儀式という意識もなく参加しているイベントも多いだろうけれど。
 何にせよ、混沌としている。
 神道、仏教、道教、儒教、キリスト教、お構いなしだ。
 だから、思う。
 節操がない、と。
 でも、それは別に悪いことではないし――もっとも、善悪のモノサシで線引きするものでもないだろうけれど――自然の流れというか。知識だけ振りかざして、仏教徒っぽさを偽装する俺に比べれば、よっぽど健全というか。
 取り敢えず、俺個人のことは置いておいて。
 日本人という民族について語るのであれば、そうあって当然、もしくは、そうあるのが必然、とも言える。
 なぜなら、日本には古来からアニミズムの信仰があって――アニミズムというのは、あらゆるものの中には霊魂ないし霊が宿っているという考え方で、さらには、それらに人格を投影したりもする――今の日本人にも受け継がれている思想だ。サブカル的な擬人化キャラとか良い例だろう。適切かは分からないけれど。
 そして、その土着の信仰には八百万の神様がいて、人々はそれらを等しく、全てを同格に仰ぐべき対象だと位置づけてきた。
 あとから伝来した仏教やキリスト教の神様仏様も然り。日本の人々は、外来のそれらを同様に敬う対象だと認識し――おそらく、八百万の神様に新しい“仲間”が増えたという感覚で、受け入れてきたのだろう。
 良く言えば、寛容。悪く言えば、適当。
 だから特定の一つに帰依しない。尊ぶものは唯一ではない。そういう意味で無宗教。
 そんな感覚だからこそ、神仏習合という思想が生まれて、神宮寺のような神と仏が合体した建造物ができたりしたのだ。
 合体といえば、七福神(しちふくじん)なぞ最たるものだ。ヒンドゥー教と仏教と道教と日本由来の神様が一堂に会しているのだから。
 日本人はつくづく合体とか融合が好きだな、と思う。合体ロボが流行ったわけだ、と。
 さらに言うなら、猫耳という素晴らしい文化が生まれたのも、それゆえかもしれない。
 断っておくが、とりわけ猫耳が好きなわけではない。そこは勘違いしないでほしい。猫耳なんて。“猫”耳、だなんて。そんな限られたモノではなくて。もっと幅広く。可能性は最大限に――獣耳(けもみみ)。そう、獣耳という大きなカテゴリこそが全てを満たす唯一の道。
 …………これ以上は話が変な方向に進みそうなので自重するとして。というか、ソレと神仏習合を同じ土俵で語るのもどうかと思ったりもして。

神仏習合

 取り敢えず。
 日本古来からのアニミズム的な信仰と、今も昔も変わらない“輸入したものを独自に加工する能力”に長けた日本人の特性とが、交じり合って、解け合って、合体した結果。
「神様も仏様も等しく尊い存在だから一緒に祀ったらいいじゃない」的な思想、すなわち神仏習合へと到った――それには些か語弊、もとい、個人的解釈ってヤツが含まれているけれど。
 その後、混同視されていた神道と仏教、神と仏を分離する動きが起った。歴史上、真っ先に思い浮かぶのが明治維新後に発布された『神仏分離令』や『大教宣布』だろう。それによって廃仏毀釈の運動が引き起こされたりもした。
 そんなこんなで。
 日本の神様仏様は時代の流れの中で、合体させられたり切り離されたり、持ち上げられたり持ち下げられたり、忘れ去られたと思えば取りざたされたり、いろいろ慌しい。
 それは現在進行形で、日々振り回されている彼らにすれば堪ったもんじゃないだろう。きっと、うんざりしているに違いない。
 当然ながら、「堪ったもんじゃない」と思うのも「うんざりしている」と思うのも、俺の憶測、妄想でしかない。
 彼らを彼らと呼んでもいいのか、それ以前に、ヒト的な思考を持ち合わせているのかさえ不明ではあるけれど――彼らがどう思っているのかなんて、彼らに聞かなければ分からない。
 そんなことを何の気なしに考える自分に対して、何だかんだで土着由来の信仰心が定着してるじゃん、と思ったりもするわけだが。
 一方で、そんなことは聞けるはずもなく、仮に“何かの間違い”で聞けたとして、だからといってどうなるもんでもないと考える自分がいた。
 そもそも、その疑問はただの気紛れで、実際のところ、端から興味もなかった。

 今現在。俺は中学校を卒業して、高校生活を送っている。
 日本人は相変わらず、“信仰心の薄くはない”無節操な無宗教者ばかりで。
 俺は相変わらず、そんな彼らと逸(はぐ)れないように、仏教徒っぽさを取り繕いながら無宗教者を続けている。

 あのとき、気紛れで抱いた疑問なんて、きれいさっぱり忘れていた。
 その答えを、まさか本人(?)の口から聞くことになろうとは、想像すらしていなかった。

***

一宮神社/あゆみ・癒安・謎の団子頭

「ああっ! もしかして『あのとき』の――――!?」
 背後で、誰かが叫んだ。
 その声に団子頭の身体が小さく揺れた――その表情が、一瞬、「しまった」と言いたげに曇ったのを、俺は見逃さなかった。
 叫んだのは、あゆみだった。
「恵も見かけたやろ? ほら、巡礼を始めた日、駅から霊山寺に向かう途中で!」
「ああ。確かにどこかで会った気はするけど……」
 だけど、霊山寺への行きがけだっただろうか。会ったのは、もっと後だったような。
 同意を求めるあゆみに、俺は首を傾げた。
「絶対、間違いないよ。緑色で真ん丸で、先っぽにピンピンって葉っぱみたいな飾りがついてて」
 団子頭の、団子の部分を指差しながら、あゆみが言う。でも、何かに気づいたように、すぐに指を降ろした。そして、
「あ、でも、服が全然違うかも……」
 と、自信をなくした声で呟いた。
 それから、しばらく黙って俯いていた――初日に見かけたときの服装を思い出していたのだろう――が、ふっと顔を上げた。
「そうそう。あのときは青い服で、胸元に『S』のマークがあったと思うんよ」
「エスマーク……」
 そのキーワードに、俺は一つ心当たりがあった。まさかとは思うけれど。
 鞄から携帯を取り出すと、カメラ画像のフォルダを開く。あまりにも印象的だったので、確か写真に収めたはずだ。
「……お前さ、もしかして“コレ”のこと、言ってる?」
「あっ! それだ!!」
 もしかして、ではなかった。
「…………」
 俺は“その写真”をあゆみに見せながら絶句した。そしてすぐさま、
「おまっ――似ても似つかねぇよ!」
 携帯の液晶画面に映し出されていたソレは、徳島県のマスコット――徳島特産の柑橘類がそのまま名前になっているキャラクター――だった。

「うぅぅ……。なんであんな思い違いをしたんかな……」
「あはは。どんまいどんまい」
 我ながら酷い勘違いだったと思っているのだろう、がっくりと頭を垂れるあゆみに、癒安(ゆあん)が笑いながら励ましの言葉をかけていた。
 その癒安の姿を見て、思いだした――安楽寺の出来事を。
 あの夜のことを。
「癒安さん!」
 つい、声を上げてしまった。一斉にみんな――この場に残っていたのは俺を除いて、あゆみ、癒安、たいさん、謎の団子頭、それに絡まれていた(?)十三番札所の八八さんである結花(ゆな)の四人プラス一匹だった――の視線が集まる。
 俺は少しだけ声のトーンを抑えて、続けた。
「安楽寺で一泊した夜。庭園の池の近くで、たいさんが襲われたことがあったろ?」
 たいさんに向かって飛んできた一本の矢。
 癒安が庇ってくれたおかげで事なきを得たが、あの矢は明らかにたいさんを狙って放たれたものだった。
「あのとき、一瞬やけど、子どもの姿が見えた」
 暗かったので姿をはっきりと見たわけではないけれど。特徴的な影を――目の前で座り込んでいる団子頭と同じシルエットを、確かに見た。
 それを聞いて、癒安は。
「子どもの影……?」
 きょとんとした表情で俺を見て、言った――継いで出た言葉は心底意外なものだった。
「襲われたって……タヌキさんが?」
 冗談で言っているようには見えなかった。
「たいさんは、当事者なんやけん――」
 覚えてるやろ? と、聞くまでもなかった。
「はて。おぬしは一体、何を言っておるのだ?」
 癒安と同様に。小首を傾げるたいさん。
「きっと、恵も何か思い違いをしてるんだよ」
 あゆみが側まで歩いてきて、俺の肩をポンポンと叩いた。不憫そうに、かつ、同類を見つけた喜びを含んだ、微妙な笑顔で。
 確かに、あのとき――あの場所に、あゆみは居合わせてはいなかった。だけど翌朝、十楽寺に行く前に立ち寄った“たらいうどん”の店で話したはずである。
 その記憶も、ないのか……?
 俺は、思い出させる手掛かりを探して、初めの巡礼から想起した。
「安楽寺だけじゃなくて、金泉寺でも――」
 と、そこまで言って、やめた。
 三番札所の金泉寺(こんせんじ)の境内と、
 四番札所の大日寺に向かう途中に通りかかった、岡の宮の大楠と、
 そして、ここ十三番札所の大日寺の前に立ち寄った建治寺(こんじじ)の駐車場で。
 たいさんを狙った視線を感じてはいなかっただろうか――いや、その視線はあったのだ。間違いなく。
 だけど、言うのをやめた。
 視線の主が、大きな鳥だったことに気づいて。
 鳥と団子頭とを、なぜか“同じ”だと思ってしまった。一時的ではあるけれど。そう提言する一歩手前で気づくことができたけれど。
 何にせよ、似ても似つかない二つを混同しかけた――あゆみが言うように、何か思い違いをしているのかもしれない。そう、思い始めた。
 思い始めたところに。
「あの……。僕が皆さんと会ったのは、ここが初めてだと思いますよ……?」
 当の人物、団子頭が遠慮がちに言った。
 あれ? と、思った。
 結花と二人きりのときと、随分印象が違う気がする。遠巻きに二人の様子を見ていたときは、団子頭が結花に対して、一方的に怒鳴りつけていたのに。
 今のこの子からは、頭ごなしに誰かに意見をする姿は想像できない。
 だけど、その違和感を指摘する人はおらず――「やっぱり初対面かぁ」と、そっち話題に対する反応だけ――納得の声を漏らす人しかいなかった。
 パンパンッ。
 癒安が手を打った。みんなの注目を集めてから、団子頭に話しかけた。
「ウチは結花ちゃんのおねーちゃんだから、君が結花ちゃんと何で口喧嘩なんかしてたのか、気になっちゃうわけなのね」
「うん……」
 素直に頷く団子頭。だけど、それ以上話そうとはしない。困ったなあと、癒安は小さく笑う。
「おにーちゃんと、白いリボンのおねーちゃんは、急いで十四番札所の常楽寺に行かなきゃダメなの。よかったら、君もついてきて、歩きながら話してくれると嬉しいな」
「……」
「歩くっていっても、そんなに遠くないよ」
「…………うん」
 団子頭は少し考えて、首を縦に振った。そして、ポツリと言葉を発した。
「……僕も、丁度、お兄さんに聞きたいことができたし」
「うん? 何か言った?」
「ううん。何でもない」
「そっか。あ、君の名前、まだ聞いてなかったね」
 癒安は気にしたふうもなく、団子頭に名前を訊ねた。
「僕の名前は――」
 団子頭は答える。
「すだち」
 その名前を聞いて俺は。
 あゆみが徳島県の某ゆるキャラと混同してしまったことも――もちろん、偶然ではあるけれど――あながち間違いじゃなかったのだ、と思った。
 そして、「俺女」の次は「僕っ娘」の登場か、なんてことを頭の片隅で考えていた。

***

常楽寺

 第十四番札所。
 盛寿山(せいじゅさん)延命院(えんめいいん)常楽寺(じょうらくじ)。
 寺伝によれば、弘法大師・空海が、この地で修行をしていたときのこと、多くの菩薩を引き連れた弥勒菩薩の姿を感得した。そこで霊木に弥勒菩薩を刻み、堂宇を建立して、そこに本尊として安置したとされる。
 それから、空海の甥に当たる真然僧正が金堂を建立し、祈親上人が講堂、三重塔などを建立して、七堂伽藍の大寺院となったと伝えられている。
 しかし、天正年間(一五七三年~一五九二年)に長宗我部元親の兵火によって焼失。万治二年(一六五九年)に徳島藩主、蜂須賀光隆によって再興された。そして、文化十五年(一八一五年)、溜池構築のために低地の谷から石段を五十段ほど上った現在地に移転し、今に至る。
 ちなみに、四国八十八箇所霊場の中で、弥勒菩薩を本尊とするのは、ここだけだ。

常楽寺/アララギ大師

 常楽寺には、今まで巡ってきた寺のような山門はない。きれいに整備された石階段の参道を上ると、門柱がある。
 その柱を過ぎると、境内――流水岩の庭が広がっている。
 流水岩の庭は、断層が剥き出しとなった自然の岩盤が創り上げた、荒々しくもあり優雅さも感じられる評判高い庭園だ。今でも風雨によって形が変化し続けている。
 庭園を横切って奥に進んだ先に本堂と大師堂がある。
 本堂の手前には樹周八メートル、高さ十メートルの「櫟(いちい)」の大木がそびえ、本堂に覆いかぶさるように枝を広げている、その大木の枝と枝の間に、小さなお大師さん像が座っている。櫟は別名で「アララギ」ということから、その像は「アララギ大師」と呼ばれ、親しまれている。
 この櫟の木には、お大師さんの逸話が残っている。
 ある病に苦しむ一人の老人がいた。お大師さんは持っていた霊木を削ってその老人に飲ませたところ、たちまち病が治ったという。
 そこで、同じ病に苦しむ人のためにと残った木を植えたところ、それが根付き、やがて大木になったのだという。
 アララギ大師は糖尿病、眼病の治療に霊験があるそうだ。

常楽寺/流水岩の庭

 境内の最奥。本堂の前に立ったところで、俺は気がついた。
 静かすぎる。
 どうやら、みんなを置いてきてしまったらしい。
 そんなに速く歩いたつもりはなかったのだけど。といっても、すだちという子供の同伴者が増えたことに、何ら配慮はしていなかった。
 後からゆっくり歩いているのだろう、みんなの姿を探して、流水岩の庭まで引き返す。
 そこまで来て、ようやく異常なのだと認識した。
 静かすぎるどころの話ではない。誰もいない。人間以外の気配も感じられない。風の音さえ聞こえない。
 無音。
 ありきたりな表現だけど、時間が止まったみたいだった。
「さてと、どうすっかな」
 あまりの静寂さに耐え切れず、声に出して言った。だけど、こんな環境での発言はかえって逆効果だということが分かった。
 自分の声が虚しく響いて、余計に寂しさを助長する。
 本気で、どうしよう。
 今度は心の中で呟いた。
 それから少し考えて。取り敢えず、寺の敷地から出ればどうにかなる気がして、門柱に向かって歩き始めた――矢先。
「うおぉ!?」
 流石、流水岩の庭。流石は、自然が造り出した庭園だ。人間の歩きやすさなど、端から考えていない――俺は岩の歪みに足をとられて、派手に転んでしまった。
「…………ふぅ」
 上半身だけ起こして溜め息をつく。
 良かった。この場に誰もいなくて、本当によかっ――
「あの。大丈夫、ですか……?」
「うおおおおぉぉ!??」
 完全に油断していた。
 突然、背後からかけられた声に――控えめな、か細い少女の声に、度肝を抜かれた。ここ数年のびっくりしたランキングの、上位三位には軽く入るくらいの衝撃力だった。
「その様子なら大丈夫そうですね」
 チマチョゴリ風の着物を着た黒髪の少女――結花は、口元に手を当てて「ふふふ」と笑った。
 そのさらに背後から、
「あははは! お兄ちゃん、カッコ悪ぅ!」
 ひょっこりと、すだちが顔を出した。ニヤニヤと笑うその顔には上品さが感じられない。結花と並ぶと尚更だ。
 と、いうか。
 さっきの――癒安の前で見せていた態度は、やはり演技だったのだ。
「……猫かぶりめ」
 俺は小声で言った。その声はすだちにも聞こえたらしく――別に、聞こえないように呟いたわけではないので構わないし、むしろ照れ隠しのための憎まれ口だった――それに対して、ヤツは「何のことだか」と人を食ったように笑うのだった。
 そして、手を差し出して、
「ねえねえ、いつまで寝てんの? 土、好きなの? いいから早く起き上がりなよ」
 と言った。
「……」
 すだちみたいな子供に手を差し伸べられるのは癪に障るし、何より言動がムカついたので、手を借りずに立ち上がった――が、この対応のほうが、よっぽどガキっぽかったかもしれない。と、後から思った。少し反省もした。
「……ところでさ、他のみんなはどうしたよ?」
 立ち上がって、辺りを見渡した。
 見渡していると、視界の淵にすだちの顔が入り込んだ。
 ニヤニヤと。
 何となく。不快と言うより不安を感じる笑顔だった。
 不意にその口が動く。

常楽寺/流水岩の庭/すだち

「あの人たちには、消えてもらったよ」

 そう言って、すだちが口元を歪ませた。
 今までとは違う、蠱惑的な笑み――思わず、全身が総毛立った。
 まるで。
 じいちゃんの家で体験した“あれ”のようだった。
 あの“呻き声”を聞いたときのよう――
「お前……」
 暴れる鼓動を何とか抑えて、声を出した。
 口の中が乾いて、カラカラに乾いて、それ以上は何も言えなかった。
 すだちと名乗った、子供のカタチをした、ナニか。
 しばらくの間、そのワカラナイモノと対峙した。対峙したまま、身動きできなかった。視線を逸らすことすら、叶わない。
 一帯の空気が凍りついたように、全ての動きを制限していた。
 だけど、
「――ぷっ」
 一瞬にして、緩んだ。張りつめた糸が切れたように。
「きゃははははははははははははは!!」
 すだちが笑う。爆笑する。
「あはははは、お兄ちゃん、サイコー! てか、マジになりすぎっ! ヤバっ、お腹痛っ!!」
 お腹を抱えて笑い転げる。
 足を投げ出して、手で地面を激しく叩いて。そのはしたない行為は、全身全霊で人を馬鹿にするためのものに思えた。
 何とか一矢を報いる方法はないかと考えたりもしたけれど、結局いい方法は思い浮かばずに、
「女の子が大口開けて笑うなよ」
 結果として、そう非難する程度の、みみっちい真似しかできなかった。
 みみっちい真似だったけれど、効果はあった。
 あれほど笑い転げていたすだちが、ピタリと動きを止めた。
 そして、恨めしそうに。若干、目に涙を浮かべながら――言った。

「僕、男の子だもん!!」

「――で、この状況はお前の仕業ってことで間違いないんだよな」
 すだちが「僕っ娘」ではなく「男の娘」だと判明したところで、俺はすだちに問いかけた。
「うん、そうだよ。……お兄ちゃんさぁ、僕が男の子って分かった途端、態度変わったよね。口調が冷たくなったというか」
「うっせ」
「……まぁいいけどね」
 すだちは半眼の眼差しで俺を一瞥してから、話し始めた。
 どうやら、俺と二人きりで話をしたかったのらしい。そのための人払い、と言う名の、拉致――誰にも邪魔されないように、俺だけ“別の次元に引っ張ってきた”のだと説明した。
 俺だけ、と言いながら、結花まで居るのはただの手違い――間違って連れてきてしまったらしい。
 すだち曰く、「次元の移動なんて久しぶりだったんだもん」だそうだ。ふてくされたように呟いてプイッと外方(そっぽ)を向く態度は、お子さま以外の何者でもない。――が、すぐに向き直して言った。
「ついでに、そこの人もね」
「?」
 すだちが、俺の足元を指しながら言った。
「お兄ちゃんが踏んづけてる、その人」
「!?」
 反射的にその場から飛びのいた。
 た、確かに、さっきから地面が柔らかいな~とか、思ってたけどさ!
 だけど、まさか。
「まさか、本気で気づいていなかったの? お兄ちゃんって案外、天然?」
 すだちの呆れた声。
 信じたくはないけれど、かくして俺がさっきまで立っていた場所に、ソレは居た。
 本来なら叫び声を上げていただろう――実際、喉元まで出かかっていた――けれど。
「きゃああああ!」
 先に響いた悲鳴――今まで黙っていた結花の叫び声で、俺は喉元まで出かかったものを吐き出すタイミングを逃してしまった。
「閃(せん)ちゃん! 大丈夫!?」
 結花は血相を変えて駆け寄ると、閃と呼ばれたソレの身体を揺すった。
 だけど、反応がない。
 抱き起して少し強めに揺さぶってみても、その身体はダラリと崩れ、目蓋は固く閉じたまま開く様子がない。
 オロオロとするばかりの結花。だからといって、俺が何とかできるはずもない。
「仕方がないなあ。ちょっとどいて」
 すだちはそう言うと、結花を押し退けるようにして閃の側に屈み込んだ。そして、閃の額に掌をかざして、数秒。
「――ん……」
「あっ、目を覚ました!」
「……?」
 薄らと開けた眼で結花の顔を見つめる。その横顔は寝起きでぼんやりとしていたものの、中性的で整った顔立ちをしていた。
 何にせよ、無事でよかった――俺はその様子を見ながら胸をなでおろすのだった。
「ん? なあに、閃ちゃん」
 閃の口が動く。
 何を言っているのかは聞こえない。すぐ真横にいる結花にさえ、その声は聞き取れないようだった。
「え? 聞こえな――」
 その言葉に答えるように。 ――ぐうぅぅ。
 奇妙な音が響いた。瞬間、ただでさえ閑寂な空間が、さらにしんと静まり返った。
 どうやら、閃の腹の虫が鳴いたようだった。
「お腹空いてるの?」
 すだちは「ちょっと待ってて」と言うと、両の手を――掌を上にして前に突き出した。
 ぽわっと、淡い光が点って、その中心から緑色の球体が溢れ出てきた。
 すだち(柑橘類)だ。
 すだちがすだち(柑橘類)を出している!
 あっという間に地面を埋め尽くす、大量のすだち(柑橘類)。
 お腹を空かせているらしい閃のために出したのだろう。案外、優しいところもあるんだな、と思いながら。
「すだちってさ、食べるっていうより、料理に使うもんじゃないっけ?」
 なんて無粋な指摘をしてみたりする。
 その言葉に衝撃を受けるすだち。
「えっ、そうなの!? 食べれないの? ショックすぎるんだけど!!」
「いや……食べられなくはないだろうけど」
 ただ、それだけをモシャモシャ食べるってイメージがないだけ。香酸柑橘類だし。
「じゃあさ、じゃあさ。どうしたら食べれるようになる?」
「だから食べるってより、焼き魚とかフライに絞って使う感覚だからなあ。ああ、すだちを使ったケーキとかは、かろうじて食べるって表現できるか……」
 というか。すだちは、どうあってもすだち(柑橘類)を食べさせたいらしい。
 食べ物を自由に出せるのなら、他の何かを出してあげればいいのに、と思わなくもない――しかしながら、すだちが出せる物にはいろいろ制限があることを、後から本人に聞かされた。
「いいね! ケーキ!!」
 すだちは「任せろ!」と、地面に転がったすだち(柑橘類)を五、六個拾い上げた。
 すると、それらは形を変えて、すだち(柑橘類)の爽やかな香りとバターの風味が漂うパウンドケーキになった。
「わぁ、美味しそう」
 結花はすだちからケーキを受け取ると、閃のもとへ運んで行った。
「お兄ちゃんもどう?」
「ああ、サンキュ」
「いっぱいあるから気合い入れて食べてよね!」
 見れば、地面を覆っていた大量のすだち(柑橘類)は、大量のケーキへと姿を変えていた。ざっと見積もって五十個はくだらない。「適度」という言葉を知らない子だ。どうすんだよ、この量……。
 まあ、残ってもあゆみたちにあげればいいか。
 と、生真面目に残ったケーキの心配をしていたわけだが。
 そんな心配は不要だった。
 お腹が鳴るほど腹ペコだった閃が、きれいさっぱり平らげたのだ。

常楽寺/流水岩の庭/結花・閃

「いやー、食べた食べた」
 閃が立ち上がる。そして一度大きく伸びをして、
「お腹も満たされたことだし。さて、二度寝しよ」
「えええ! ちょっと待ってよ、閃ちゃん!?」
 結花の「待った」に耳をかすことなく、閃は流水模様の刻まれた岩の隙間に寝そべると、ゴロンと背中を向けた。
 しばらくして、規則正しい寝息が少し離れた場所に立っていた俺とすだちのほうにも聞こえてきた。
 結花は何度かその背中を揺す振っていたが、相手が起きそうにないことを悟ると、俺たちのほうに歩いてきた。
「ごめんなさい。あの子――妹の閃は、一度寝るとなかなか起きなくて……ケーキのお礼も言っていないのに……」
「べっつにー。お礼なんて要らないよ。あんだけ豪快に食べてくれたんだから、僕としては満足だもん」
「ふふふ。ありがとうございます」
 すだちの言葉に破顔する結花。それを見て、俺の頭に疑問が浮かぶ。
「お前らって結構、仲良い……?」
「あっ、はい。私たちは仲良しですよ?」
「それがどうかしたの? お兄ちゃん」
「いや……だって、さっき喧嘩してたじゃん」
 それを聞いてすだちが噴き出す。
「あははは。お兄ちゃん、喧嘩するほど仲がいいって言葉、知らないの? 仲良しだから本気でぶつかったりもできるんだよ」
 しばらく誰かと本気でぶつかったりしていない俺には、些かグサリとくる台詞だった。
「……だったら。癒安さんに聞かれたときも、そう言えばよかったやん」
 何も黙ることなかったと思うんだ。
「あのっ、それはですね、喧嘩のきっかけが……」
 代わりに答える結花。その顔は恥ずかしそうに赤く染まっていた。
「お供えの大福を取り合ってた――なんて、恥ずかしくて言えなかったのです!」
「そんな理由かい!?」
 どうやら。一宮神社に大福が三個お供えされていたようで。それを一個ずつ食べたあと、残り一個――それを巡って言い合っていたらしい。
 なんともくだらない理由だった。
「というか、神社のお供え物に手を出すなよ……」
 溜め息まじりに呟いた俺の言葉に、すだちが反応する。
「なんで?」
「何でって、神様へのお供え物なんだからさ」
「だったらいいでしょ? 僕、カミサマだもん」
 と、すだちはさらりと言った。
「……はい?」
「だから、カミサマなの。僕。一宮神社の神様じゃなくて、この国――徳島に棲むカミサマ。正式な名前は『スダチノカミ』って言うの」
「はぁ」
「結花と仲が良いのは当たり前だよ。だって、カミサマは何かを嫌ったりしないもん。お兄ちゃんたちヒトだって、みんなみんな大好きだよ」
 人を食ったような発言も、人を馬鹿にしたような笑い方も、カミサマ・すだちの愛情表現なのだそうだ。嫌な愛情表現である。
「……って、お兄ちゃん。全然信じてないって顔してる」
「そりゃ、いきなり言われても」
「信じれないのは僕がカミサマってこと? それとも、みんな大好きって言ったこと?」
「どっちも」
 実際、俺が信じられないのは前者、すだちがカミサマってことだった――そもそも後者については考えてもなかった――のだが、面倒だったので「どっちも」と答えた。
 すだちは「ふーん」と、人の顔を値踏みするような眼差しで見つめた。
「まあ、そうだよね」
 と、一人納得したように頷く。
「うん。カミサマが嘘ついちゃダメだよね。僕がカミサマってことは真実(ホント)――もっとも、お兄ちゃんがイメージしてる“神様”と僕が言う“カミサマ”はちょっと違うかもだけど。そして――」
 深い森を想起させる緑色の瞳が、真っ直ぐ見据えて。
「みんな大好きってのは嘘。お兄ちゃんたちは大嫌い、かな」
 屈託のない、純粋そのものといった笑顔で、すだちはそんな言葉を投げつけた。
「でもでも、ヒトが嫌いなんじゃないよ」
 すだちは、それは本当だからね、と念を押すように繰り返す。そう繰り返した後で。
「ただ、僕らの計画を邪魔するお兄ちゃんたちが大っ嫌いなだけ」
 と、ズバッと言った。
「…………」
 意味が分からんのだが。計画の邪魔とか。というか、初対面のヤツに面と向かって大嫌い宣言されてみろ。泣くぞ、俺だって。
「何のことか分からないって感じだね。いいよ、教えてあげる。何で僕がお兄ちゃんたちを嫌っているのか――」
 三度目の嫌いが聞こえたと同時に。
 ぐにゃり、と――視界が歪んだ。

***

草原

 気がつけば草原の真ん中に立っていた。
 見渡す限り広がる、地平線。
 隣にすだちが立っているだけで、結花とその妹――岩の隙間で眠っている閃――の姿はなかった。
「どこだ、ここ?」
「約一二〇〇年前の、四国のある場所を再現したんだよ」
「再現?」
「うん。僕の記憶をお兄ちゃんに見せてるの」
 だから八八さん二人はいないのか。
「今から起こることは全部記憶の再現だからね。何が飛びかかってきても、何が降り注いできても、安心して見てるといいよ」
 すだちはニヤニヤと笑みを浮かべて、そんなちっとも安心できそうにない台詞を言った。
 かくして。

『うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 突如、響き渡るけたたましい雄叫び。
 それに呼応するように。

『おらあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 反対の方向からも怒号が上がる。
 二つの咆哮に挟まれる位置に、俺たちは立っていた。
「ちょ、ここに居って大丈夫なん!?」
「大丈夫だって。再現だって言ったじゃん」
 言ったけど。そう聞いても、ものっ凄い怖いんですけど。
「お兄ちゃん、臆病者(チキン)すぎ……」
 すだちがボソッと言い捨てた。その言いぐさは捻くれた愛情表現でも何でもなくて、本心からの言葉だったのだと今更ながら思ったりする。
『ふぉおおおおおおおおお!!!!』
『ごらぁああああああああ!!!!』
 地を揺らすようなその声は、幾重にも重なって、どんどん近づいてくる。
 そして。
 両側から雄叫びの主――数百人規模の軍団が姿を現した。
「な、何なん!」
 異様な光景に戸惑う俺。
 地平線の彼方から姿を現した二つの軍団。
 一方は。
 濃緑色の長い髪をなびかせ――髪が風に揺れる度に隙間から木のように枝分かれした角が見え隠れする――、薄布一枚を腰に巻き付けた出立ちの筋骨隆々な男を筆頭に、その周りを徳島ゆるキャラ「すだちくん」っぽいけれど、どこかが違う全身緑色の謎生物――やはり筋骨隆々――がひしめいている。
 もう一方――緑軍団に対峙するのは。
 いろいろな意味で眩しい、直視すると目が潰れてしまうのではないかと思うほど眩しい、禿げ――もとい、坊主集団。こちらも負けず劣らず鍛え抜かれた肉体美を誇る坊主ばかりの集団だった。
「な、何なのさ、この人たち!?」
 思わず叫ぶ。
 その声に応(こた)えて、すだちが言った。

「第百八回“スダチノカミ”対“美坊主・クウカイ”の友好試合だよ」

つづく


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